影響

これまで生じている気候変動影響

全国

  • 20 世紀以降の海洋の昇温は、世界全体の漁獲可能量を減少させた要因の一つとなっていることが指摘されている。
  • 現在、温暖化に伴う海洋生物の分布域の変化が世界中でみられている。日本周辺海域における主要水産資源(回遊性魚介類)の分布域の変化、それに伴う漁期・漁場の変化は下記の通りである。
  • クロマグロは、昇温が著しい日本海において、仔魚の分布が拡大したと推測されている。
  • マサバの産卵場が表面水温の上昇とともに北上し、産卵が終了する時期が延びた。
  • ブリは、日本全体で漁獲量が増加しており、特に北海道、東北地域で増加が顕著となっている。
  • サワラは、日本海や東北地方太平洋沿岸域で漁獲量が増加している。
  • シロザケは、海洋生活初期の高水温によって回帰率が低下したと推察される。
  • スルメイカの回遊経路の変化に伴い、漁期の短縮や来遊量の変化が各地で指摘されている。
  • サンマは、親潮の流路変動の影響も受けながら道東海域の漁場が縮小した。
  • スケトウダラは、北海道周辺海域や日本海において加入量が減少している可能性がある。
  • 高水温によるこのような変化によって加工業や流通業に影響が出ている地域もある。

東北

  • ブリでは、日本全体での漁獲量が増加しており、特に北海道、東北海域で増加が顕著であることから、海水温の上昇が理由の一つとして考えられている。
  • 海水温の上昇によってサワラの漁獲量が日本海や東北地方太平洋沿岸域で増加したことが報告されている。

秋田県

  • サワラの漁獲量が増加しており、平成15年には5.4㌧であったのが、平成21年には109㌧を記録し、以降令和元年まで16~148㌧で推移している。また個別の漁獲統計は把握していないが、ここ数年はケンサキイカがまとまって漁獲されるようになった。一方でこの数年、スケトウダラの漁獲量は著しく低迷している。
  • 気候変動のみが原因であるとは断定できないものの、近年、本県におけるハタハタの漁獲量が減少している。(低水温で生息するハタハタにとって海水温の上昇は大きな問題)
  • 海水温が平年より高い年はマダイやブリ類などの漁獲盛期が早まることがあるほか、サワラやケンサキイカ等の南方系魚種が多く漁獲されることがある。
  • イシダイの大型魚や稚魚が本県沖で確認されていることから、これまでは死滅回遊していた魚種が本県沖で越冬や再生産している可能性がある。

将来生じる可能がある気候変動影響

全国

  • 世界全体の漁獲可能量が減少することが予測されている。RCP8.5シナリオの場合、21世紀末の漁獲可能量は、21 世紀初めと比較して約2割減少すると予測されている。
  • 日本周辺海域の回遊性魚介類については、分布回遊範囲及び体のサイズの変化に関する影響予測が数多く報告されている。魚種別の影響は下記のとおりである。
  • まぐろ類は、RCP8.5シナリオの場合、2081~2100年には海水温上昇と動物プランクトンの減少により太平洋亜熱帯部で漁獲量が減少し、分布が北東へ移動すると予測されている。台湾、沖縄周辺海域においては、クロマグロの産卵に適した水温域が北上し、仔魚の生残率が低下すると予測されている
  • さけ・ます類では日本周辺や北太平洋西部での生息域の減少が予測されている。特に夏季の分布域が水温上昇によって縮小することが示唆されている。
  • サンマは、餌料環境の悪化から成長が鈍化するものの、回遊範囲の変化によって産卵期では餌料環境が好転し、産卵量が増加する場合も予測されている。水温上昇によってサンマの漁場が公海域に形成されやすくなることから、小規模漁業者の操業に問題が生じることや、体重減少による価格への影響も懸念されている。
  • スルメイカは、2050 年には本州北部沿岸域で、2100 年には北海道沿岸域で分布密度の低い海域が拡大することが予測されている。日本海におけるサイズの低下、産卵期の変化も予測されている。
  • マイワシは、海面温度の上昇への応答として、成魚の分布範囲や稚仔魚の生残に適した海域が北方へ移動することが予測されている。
  • ブリは、分布域の北方への拡大、越冬域の変化が予測されている他、既存産地における品質低下が危惧されている。
  • 海洋酸性化により、東ベーリング海におけるオオズワイガニの漁獲量が減少することが飼育実験により予想されている。将来的には、海洋酸性化により日本近海のかに類にも影響が生じる可能性がある。
  • 漁獲量の変化及び地域産業への影響に関しては、資源管理方策等の地球温暖化以外の要因も関連することから不確実性が高く、精度の高い予測結果は得られていない。

東北

  • 山形県五十川の下流では水温上昇によるサクラマスの越夏適期の短縮が予測されている(RCP2.6 シナリオ、RCP8.5 シナリオに基づく MRI-CGCM3 モデルによる気候予測情報を使用)(RCP8.5 シナリオに基づく MRI-NHRCM02 モデルによる気候予測情報を使用)。

秋田県

  • 現状の水温上昇傾向が持続するとすれば、回遊性か定着性かを問わず、暖海性種が増加、寒海性種が減少し、海域の種組成や現存量に影響を与えると想定される。
  • 海水温の上昇によりハタハタの産卵場が北方へ移動することが予測され、秋田県沿岸域で漁獲できなくなる可能性がある。
  • ブリやサワラ等の南方系魚種の漁獲量の増加傾向が続く可能性がある。
  • 海水温の上昇により回遊性魚種の回遊経路が変化することで漁場も変化する可能性があり、漁業者がこれまでの経験で蓄積した漁場データ等が使用できなくなる可能性がある。

気候変動適応対策

現在の影響に対する既存施策の実施状況

  • 海水温変動をリアルタイムで観測できる体制の構築を進めているところであり、将来的な水産資源の変動や、来遊予測、漁場形成予測につなげたいと考えている。
  • 近年のハタハタの漁獲量減少は、地球温暖化以外の要因も関連すると考えられることから、気候変動に限定した対策は講じていないが、より現実的で実現性の高い資源管理対策を行うことでハタハタ資源の維持に努めている。
  • 漁獲量が増加した魚種を含む県産水産物を有効に活用できるよう、漁業者や加工業者による商品開発や高品質化の取組を支援している。

将来の影響に対する対応方針

  • 変化する環境と生物相を的確に把握し、新たに増加する資源の利活用方法を検討していくのが現実的対応と考えている。
  • 本県の水産業はハタハタへの依存度が高く、ハタハタ漁獲量の減少が漁業者に与える打撃は大きいことから、流通活性化等により、ハタハタ以外の魚種の魚価向上に取り組む。