影響
これまで生じている気候変動影響
全国
回遊性魚介類以外の海面漁業
- 各地で南方系魚種数の増加や北方系魚種数の減少などが報告されている。
- アワビでは、主要漁獲物が在来種から暖海性小型アワビに遷移する事例がある。
- アサリでは、水温や地温の上昇が資源量や夏季の生残に影響しているとする研究事例がある。
- 藻場の減少に伴い、生息場としての藻場への依存性の強い、イセエビやアワビ類の漁獲量も減少していることが報告されている。
海藻・藻場
- 高水温による天然ワカメの不漁、水温上昇によるマコンブのバイオマス量の減少が報告されている。
- 養殖ノリでは、秋季の高水温により種付け開始時期が遅れ、年間収穫量が各地で減少している。
- 養殖ワカメでは、一部の地域で秋季及び収穫時期(2~3 月)の水温上昇により、種苗を海に出す時期が遅くなるとともに、収穫盛期の生長や品質に影響が及んでいることが減収の一因となっている。また、食性魚類による養殖ワカメの食害も報告されている。
- 水温の上昇による藻類の生産力への直接的な影響と、藻食性魚類等の摂食活動の活発化による間接的な影響によるものと考えられる藻場の減少や構成種の変化が、各地で生じており、地理的な分布も変化している。
有害有毒プランクトン・魚類
- 有害有毒プランクトンについて、発生北限の北上、寒冷地における暖水種の発生、発生の早期化が報告されている。そのほか、食中毒のシガテラ中毒の原因となる毒化した魚や南方性有毒種の分布域が広がっている可能性がある。
東北
- 青森県下北半島の大間岬では海水温の上昇によるマコンブのバイオマス量の減少が報告されている。
秋田県
- 明瞭な因果関係は認めていないが、極端な水温低下あるいは上昇の影響が、アワビやサザエなど定着性生物の生活史に影響を与えている可能性がある。
- これまであまり確認される機会が少なかったワニエソやアイゴ、タイワンガザミなど南方系の魚介類の報告が増加してきている。
アユ
- 産卵期への移行が従来より早い年も発生しており、河川水の温度が影響を与えている可能性がある。
養殖ワカメ
- 海水温が高い年は種苗を沖出しする時期を遅くするなどの調整が必要になっているほか、収穫時に先枯れしているワカメが確認されるなどの影響が出ている。
ウニ
- 平成26年に水産振興センター等が実施した調査において、北方系のキタムラサキウニが減少し、南方系のムラサキウニの増加が認められた。
回遊性魚介類以外の海面漁業
- 南方系魚種であるキジハタやカサゴ類の漁獲量が増加している。また、アカアマダイやアカムツ等の小型魚が以前よりも多く漁獲されている。
将来生じる可能がある気候変動影響
全国
回遊性魚介類以外の海面漁業
- 生態系モデルと気候予測シナリオを用いた影響評価は行われていないものの、多くの漁獲対象種の分布域が北上すると予測されている。
- 海水温の上昇による藻場を構成する藻類種や現存量の変化によって、アワビなどの磯根資源の漁獲量が減少すると予想されている。
海藻・藻場
- 北日本沿岸域の主要コンブ 11 種では、海水温の上昇によりすべての種で分布域が大幅に北上する、もしくは生育適地が消失する可能性があると予測されている。RCP8.5シナリオでは全種を合わせた分布域が 2090 年代では 1980 年代の 0~25%に縮小し、RCP4.5シナリオでも 11 種中 4 種のコンブが日本海域から消失する可能性があると予測されている。
- ワカメ養殖では、RCP8.5 シナリオの場合、21 世紀末には芽出し時期が現在と比べて約 1ヵ月遅くなることや漁期が短くなることが予測されている。
- ノリ養殖では、RCP2.6 シナリオの場合、2050 年代には水温上昇により育苗の開始時期が現在と比べて 20 日程度遅れると予測されている。RCP8.5シナリオの場合、2050年代、2090年代になるにつれて育苗開始時期が後退し、摘採回数の減少や収量低下が懸念される。
- 北西太平洋では、水温上昇によりホンダワラ属アカモクの分布が北上し、2100 年には本州の広い範囲で消失すると予測されている。
- RCP2.6 シナリオの場合、日本沿岸のカジメの分布には、藻食性魚類による食害の影響のみ顕在化する。RCP8.5 シナリオの場合、高水温による生理的影響と食害の双方の影響により、2090 年代にはこれまで分布適域であった海域で生育が困難になると予測されている。
- RCP2.6シナリオの場合、瀬戸内海から黒潮流域のカジメ類の分布について、2050年代では現状の藻場を維持できる可能性があるが、RCP8.5シナリオの場合、瀬戸内海の全域で大幅に減少する可能性があると予測されている。
有害有毒プランクトン
- 海水温の上昇に関係する赤潮発生による二枚貝等のへい死リスクの上昇等が予想されている。
東北
海藻・藻場
- 北日本沿岸域の主要コンブ11種について、分布予測モデルを用いて2040年代、2090年代の分布を予測した結果、海水温の上昇によりすべての種で分布域が大幅に北上する、もしくは生育適地が消失する可能性があると予測されている。RCP8.5シナリオでは全種を合わせた分布域が2090年代では1980年代の0~25%に縮小し、RCP4.5シナリオでも11種中4種のコンブが日本海域から消失する可能性があると予測されている。(MIROC-ESMモデルによる気候予測情報を使用)。
岩手県沿岸の養殖ワカメでは、RCP8.5シナリオの場合、21 世紀末にはワカメの芽出し時期が現在と比べて約 1 ヵ月遅くなると予測されており、養殖可能期間の短縮化により収量が減少する可能性が示唆されている。(RCP2.6,RCP8.5シナリオに基づく MRI-CGCM3, MIROC5 モデルによる気候予測情報を使用)。
秋田県
- 現状の水温上昇傾向が持続するとすれば、更に影響は顕著となり、生物相が変化することが想定される。
サケ科魚類
- 高温に弱いサケ科魚類であるイワナ・ヤマメの生息域の減少やサクラマスの遡上時期が短くなることによる漁期の短縮が予測される。
有害有毒プランクトン
- 海水温の上昇に関係する赤潮発生による二枚貝等のへい死リスクの上昇、生息するプランクトンの種類の変化等による貝毒の発生が予想されている。
養殖ワカメ
- 種苗の沖出し時期の遅れや、収穫時期の早期化などが予想される。
気候変動適応対策
現在の影響に対する既存施策の実施状況
- 海水温変動をリアルタイムで観測できる体制の構築を進めているところであり、将来的な水産資源の変動と適切な資源管理や利活用につなげたいと考えている。
アユ
- 種苗生産は県で行っていることから、アユの産卵時期に合わせて、柔軟に生産が開始できる体制を整えている。
養殖ワカメ
- 海水温を確認しながら、種苗の沖出しや収穫時期を調整している。
回遊性魚介類以外の海面漁業
- 第7次栽培漁業基本計画(H27~R3)では、温暖化に対応した魚種として新たにキジハタを種苗生産対象種として選定しており、水産振興センターにおいて種苗生産技術開発が行われている。
将来の影響に対する対応方針
- 変化する環境と生物相を的確に把握し、新たに増加する資源の利活用方法を検討していくことを考えている。
有害有毒プランクトン
- 海水温を含めた海況
- 水質
- 貝毒原因プランクトンの調査継続。
養殖ワカメ
- 海水温を確認しながら、種苗の沖出しや収穫時期を調整する。