影響

これまで生じている気候変動影響

全国

  • 我が国の河川は取水や流量調節が行われているため気候変動による河川の生態系への影響を検出しにくく、現時点で気候変動の直接的影響を捉えた研究成果は確認できていない。一方で、魚類の繁殖時期の早期化・長期化や暖温帯性・熱帯性の水生生物の分布北上等、気候変動に伴う水温等の変化に起因する可能性がある事象についての報告が見られる。

秋田県

  • 現状において顕著な影響は認められない。
  • 内水面の養殖では河川から水を引き入れて養殖池に利用している所も多く、近年は水温の上昇に対応できない魚類が河川水の温度上昇によりへい死する事案も出ている。
  • アユの産卵期への移行が従来より早い年も発生しており、河川水の温度が影響を与えている可能性がある。

将来生じる可能がある気候変動影響

全国

  • 平均気温が現状より 3℃上昇すると、冷水魚であるアメマス及び本州イワナ(ニッコウイワナ・ヤマトイワナ・ゴギ)の分布適域が現在の約 7 割に減少することが予測されている。また、中国・近畿地方では平均気温の 1℃の上昇でも、分布適域が現状の約半分に減少することが予測されている。
  • 源流域のカワゲラ目の分布適域や、サクラマス(ヤマメ)の越夏環境、アユ遡上量についても、気候変動による適域の縮小・消失や遡上数の減少が予測されている河川がある。
  • このほか、現時点で定量的に予測をした研究事例は確認できていないものの、以下のような影響が想定される。
  • 積雪量や融雪出水の時期・規模の変化による、融雪出水時に合わせた遡上、降下、繁殖等を行う河川生物相への影響
  • 降雨の時空間分布の変化に起因する大規模な洪水の頻度増加による、濁度成分の河床環境への影響、及びそれに伴う魚類、底生動物、付着藻類等への影響・渇水に起因する水温の上昇、溶存酸素の減少に伴う河川生物への影響

東北

  • 宮城県名取川流域において、気候シナリオと分布型流出モデルにより得られた水温変化から、源流域におけるカワゲラ目の個体数密度を予測した研究によれば、カワゲラ目の個体数密度は近未来(2031~2050年)においては現状の64%(RCP2.6シナリオを仮定)~94%(RCP8.5シナリオを仮定)の減少、遠未来(2081~2100年)においては69%(RCP2.6シナリオを仮定)の減少、あるいは消失(RCP8.5シナリオを仮定)することが予測されている(MIROC5、MRI-CGCM3等の8つの気候予測モデルと分布流出モデルによる水温予測の各シナリオにおける平均値を用いた予測)。
  • 山形県五十川において、現在の気温及び水温の実測値から構築した日最高水温予測式と、気候シナリオによる日最高気温の予測値を用いて、サクラマス(ヤマメ)の越夏環境への気候変動の影響を調査した研究によれば、21世紀末における五十川の水温は、特に生息域の下流側の地点においてサクラマスが選好しないと考えられる 25℃を超える日が現在よりも増加し、地点によってはその日数が現在の約5倍に増加するとの予測も得られている。また、いずれの地点においても、遡上時における適水温の上限(20℃)を超える日数が現在の2~3倍に増加することが予測されている。これらのことから、21世紀末の五十川では、上流域においては将来も越夏適地が残存するものの、下流域を中心に越夏適地が縮小することが予想される。(RCP8.5シナリオを前提としたMRI-NHRCM02による気候予測情報を使用)。
  • 北海道や東北地方では積雪量や融雪出水の時期・規模が大きく変化する可能性がある。これらの地域では、融雪出水時に合わせて、遡上や降下、繁殖などを行う生物種が存在するため、季節的流況の変化は河川生物相に大きな影響を与えることが予想される。たとえば、融雪出水に合わせて種子散布するヤナギ科木本種の更新動態を維持することは難しくなると考えられる。

秋田県

  • サクラマス等の冷水性魚類の産卵、越夏適地の狭小化や、降雪や降雨の状況変化に伴う河川流量の変化によるアユ等の行動様式への影響が懸念される。,
  • 現状の水温上昇傾向が持続し、降水頻度が高まるほか、積雪や融雪も変化するとすれば、影響は顕著かつ持続的となり、生物相に大きな変化を与えると想定される。
  • サケ科魚類であるイワナやヤマメは高温に弱く、高温耐性のある個体を作出するため選抜育種をしても限界があり、湧水が豊富な山間部以外ではイワナやヤマメの養殖ができなくなる可能性がある。

気候変動適応対策

現在の影響に対する既存施策の実施状況

  • 現状において顕著な影響は認めないものの、最新の知見を参考とした監視が必要である。
  • 河川水を利用した養殖場の水温を下げることは難しいことから、水温の上昇に強い個体を作出するため、高温耐性のある魚類となるように選抜育種が行われている。
  • アユの種苗生産は県で行っていることから、アユの産卵時期に合わせて、柔軟に生産が開始できる体制を整えている。

将来の影響に対する対応方針

  • 最新の知見を参考とした監視や対応策の検討が必要と考えている。
  • 適応策はなし。その理由は、養殖には大量の水を使用し、その水を冷却するためにかかる経費が膨大になるため。