NPO法人「秋田パドラーズ」理事 後藤博行さん

サムネイル:【環境保全活動の取り組み】NPO法人 秋田パドラーズ(YouTubeへ移動します)

秋田市を拠点にカヌーを楽しむNPO法人「秋田パドラーズ」。雄物川下流部や河口部の川岸に漂着したゴミ拾いなどの定期的なクリーンアップ活動にも取り組み、ゴミ減量・ポイ捨て・不法投棄のない社会づくりに貢献しています。同NPO理事の後藤博行さんと、活動に参加する大学生の小林恵太さんに、NPOの取り組みや、海洋汚染の原因として世界的な問題となっているプラスチックゴミ(マイクロプラスチック)などについて、話を聞きました。

NPOの活動について教えてください

写真:後藤博行さん

私たちは、カヌーで楽しく川を下ることが一番の目的としています。当NPOは前理事長の船山仁が立ち上げたものです。現在のメンバーは60人ほどです。

私がカヌーを始めたのも、前理事長から誘われたのがきっかけです。自然の中で、水の流れる音を聞きながら、雑事を忘れて楽しむことができるカヌーの魅力には、1度体験しただけで夢中になりました。カヌーは、最初だけちょっと大変ですが、誰でもすぐに慣れて動かせるようになりますよ。流れる水の量や天候などによって、毎回異なる川の状況の変化をカヌーを通じて楽しむことができます。条件を付ければ、ハードなスポーツにもなりますよ。私はすごく健康ですが、カヌーのおかげと思っています。

クリーンアップに関わる取り組みは、今から18年ほど前に始めました。当時、カヌーを楽しんでいると、川岸のゴミがよく目につきました。場所によっては、足元全部がゴミという状況でしたので、「ゴミが邪魔だ」と感じたのが活動のスタートです。

当初は、ゴミを拾って、きれいにして、翌年も拾って…と、3年ほど続けてもゴミがさっぱり減らない状況が続きました。ちょっと心が折れかけましたが、前理事長は「ゴミを絶対になくすんだ」と言い続けました。もっとも、義務や理念だけだったり、大変なことばかりだったりしては続けられないから、カヌーを楽しむことを目的に頑張るんだと。そして、「ゴミを拾ってくれた人はカヌーに乗せます」との特典を用意して、市民の皆さんに集まってもらい、一緒にゴミ拾いを始めました。今は「ゴミを捨てない人」を増やしたいと考えて活動を行っています。

参加者に集まってもらいにくいゴミ拾いですが、少しずつ増えてきています。最近は、ESG(*)に対する企業の認識の高まりを受け、会社単位で参加されることもあります。

※ESGとは、持続可能な世界の実現のために、企業の長期的成長に重要な3つの観点(環境=Environment、社会=Social、ガバナンス=Governance)の頭文字から。

ゴミが減ったとの手応えはいつ頃から?

写真:捨てられたゴミ

7〜8年くらい前から目に入らなくなってきて、この4〜5年くらいは、減っていることを実感しています。今は、場所によっては、ゴミを探さないと拾えないぐらい少なくなりました。

それでも、まだまだあります。ビン・缶・ペットボトル、発泡スチロールなどが多いです。中でもプラスチックを放っておくと、分解されて、最後はマイクロプラスチックになりますよね。これまでは考えなかったような環境への影響が分かってきました。もちろん、プラスチック自体が悪いわけではないです。ただ、捨てることがいけないということなんですね。プラスチックゴミを減らす取り組みとして、秋田県立大学の堺先生から小学生と父兄の皆さんに「3R」などについて講演いただき、実際に川でゴミを拾うことを通じて現状を理解してもらうことにも取り組んでいます。

カヌーを楽しむためとはいえ、大人は仕方なくやっているわけですが、幼稚園や小学校低学年の子どもたちは、ゴミ拾いを宝探しのように楽しんでいます。大人が疲れて止めようと思っても、子どもたちは拾い続けることもあります。やはり、楽しいから続けられるんですね。子どもが参加すると、保護者にも現状を見て、知ってもらえますので、これもいいことかなと思っています。

2020(令和2)年、参加した小学生たちが感想文を書いて送ってくれました。プラスチックごみの問題について詳しく調べた子どももいるなど、いずれも立派なものでした。子どもたちを集めて発表会を開くことも予定しています。

秋田の環境について感じられていることは?

写真:椿川舟着場

秋田の自然はすごくきれいですが、ゴミはかなり多い方なのではと思っています。高知県の四万十川へ行ったことのあるカヌー仲間によると、四万十川にはゴミが全くなかったというのです。「川をどのようにしてきれいに保っているのか」と現地の人に質問したところ、そもそも川にゴミを捨てる人がいないのだとか。地元のことを振り返った仲間は、恥ずかしい思いをしたそうです。

50年ほど前ですが、秋田市の旭川は、冷蔵庫やタイヤまで捨てられる、すごく汚れた川でした。そこで、地元の青年会議所が流域の町内会に呼び掛けて、10年ほど大掛かりなクリーンアップ作戦を展開したことがあります。一度きれいにすると、捨てる人が現れにくくなります。資源ゴミの袋代がもったいないと考える一部の人が、人目につかない田舎の川にゴミを捨てているとの話を聞いたことがあります。ゴミの出る現状についても調べる必要があると考えています。

SDGsについて詳しくはありませんが、カヌーをしていると、近年、水位が低くなっていることが多いように感じます。雨や雪は一時にまとまって降ることが多くなっていますし、気象がおかしくなっているように思いますね。自然環境を守っていかなければいけないことだけは、間違いないですね。

今後の展開について教えてください

写真:カヌーを漕ぐ人々

私は50代で始めましたが、70歳になる今でも十分楽しめるスポーツがカヌーです。基本的に激しいスポーツではなく、どなたでも少しの練習でできるようになる、子どもから高齢者まで、楽しみながら適度に体を鍛えることができます。健康について秋田県が抱える課題を改善する一助にもなると思います。もっとアピールして、皆さんの健康や体力の向上に貢献していきたいです。

合わせて、マイクロプラスチックの問題を含め、環境に関わる啓発をもっと広めていきたいです。プラスチックゴミなどは、プラスチック自体が悪いのではなくて、どのようにリサイクルしていくのかを考えていかなければならない問題のはずです。例えば、ドイツで見てきたのですが、ガラスビンだけでも色別に分けるなど、ゴミの分別が徹底しているんです。このようなところに予算をかけたり、教育したりしていくことは、国や地域全体で考えていくことも必要なことなのではと思っています。

秋田大学国際支援学部2年生 小林恵太さん(秋田パドラーズ学生会員)

活動を始めたきっかけについて教えてください

写真:ゴミ拾いに参加する小林さん

高校の総合学習の時間で、環境問題に興味を持ちました。中でも、マイクロプラスチック問題、海洋プラスチック問題について関心を持ちました。

私は海のない山梨県出身ですが、秋田の大学に進学して、秋田市内5大学の学生で作るグループを通じて、当NPOの活動を知りました。すぐに連絡を取って話を聞いたところ、メンバーの考えに共感しました。カヌーに乗ったのは1回だけですが、何度か活動に参加しています。

同様の取り組みを大学でも?

写真:集まったゴミ

このような活動に取り組む機会があまりないと感じていたので、秋田大学の環境サークルの部長として、一緒に活動できる仲間を増やしながら取り組んでいこうとしているところです。

今の大学生は、環境問題について小学校から高校までに学んでいますので、知識・認知はあります。そのため、どのような行動につなげられるのかを考えながら、そのハードルをどんどん低くしていくことが大事だと思っています。もっと分かりやすく、始めやすい何かを考えていきたいと思っています。

マイクロプラスチック問題についても、人に伝える機会はありますか?

写真:小林恵太さん

11月、環境のことやマイクロプラスチックの問題について、私の思いや考えを小学生や地域の皆さんに伝える機会があります。子どもにも分かりやすく伝えたいですね。そして、知識のある皆さんには、具体的なアクションを起こせるような、ワクワクした内容を発信できればと思っています。

秋田パドラーズではカヌーの体験などを通して、皆さんに自然と触れ合う機会を提供しています。自然に触れ合うこと、自分なりに環境問題を肌で感じること、自然のために何ができるのか考えることがまず第一歩だと思います。皆さんに、カヌーを体験していただきたいです。