NPO法人 鳥海山麓グリーンネット 嵯峨佳苗さん

サムネイル:【NPO法人 鳥海山麓グリーンネット】地域循環型農業で秋田の宝を生かす【環境保全活動の取り組み】(YouTubeへ移動します)

秋田県と山形県の県境にそびえる鳥海山。山麓に位置する由利本荘市矢島町の鳥海高原を拠点に「地域循環型農業」による環境保全活動・学習活動などを通じた地域活性化に取り組むNPOがある。「秋田の自然と先人の持つ知恵は宝」と話す、「NPO法人 鳥海山麓グリーンネット」理事長の嵯峨佳苗さんに話をうかがいました。

「地域循環型農業」とはどのようなものでしょう

写真:桃野のトウモロコシ畑

鳥海高原には、畜産業に携わる農家が多くいます。そこでは、動植物から生まれる「たい肥」などの再利用可能なバイオマス資源もたくさん生み出されます。これらを積極的に使うことで、地力の回復・維持や化学肥料に頼らない野菜を作ることができます。そして、野菜の「残さ」や食用に向かないトウモロコシの茎などは、畜産で動物の飼料にすることができます。このように地域の資源を循環させるのが地域循環型農業です。

これらの事業に携わるようになったきっかけを教えてください

写真:鳥海山麓地区総合案内所

活動拠点である鳥海高原桃野畑地では、現法人の前身であるNPO法人「あきた菜の花ネットワーク」と秋田県立大学が共同で、約14ヘクタールの耕作放棄地に菜の花を栽培し、2010年から10年間、「菜の花まつり」を開催して、菜種油を生産・販売、廃食油をバイオ燃料とする環境活動を行っていました。2011年の東日本大震災時に参加していたボランティアグループでの活動の賛同者を広めるため、「菜の花まつり」に出展したのがきっかけです。また、ボランティア活動の中で、新鮮な野菜が足りないことが分かり、日頃は当たり前のように食べている野菜が、いかに大事なものなのかということを実感しました。耕作放棄地再生に向いている「菜の花栽培」を知り、当時のNPOに参加して、菜の花の連作障害を見据えた野菜栽培に着手して、現在にいたっています。

野菜の収穫体験会を開いていますね

写真:玉ねぎの収穫体験

子どもを中心に収穫体験をしてもらいたく、年1、2回開いています。夏のトウモロコシ、9月のタマネギとジャガイモなどの収穫を体験してもらっています。約10ヘクタールという広大な畑地で、「虫が嫌いだ」という子どもまでトンボやチョウを追いかけたり、自然環境に触れたりすることを楽しんでいます。子どもたちが、半日もの時間、このような環境で過ごす機会は少なくなっています。引率の親御さんたちは、驚きながらも喜んでくれています。野菜の収穫自体は、子どもよりも親御さんたちの方が夢中です(笑)。

収穫体験は食育への効果もありそうですね

写真:トウモロコシの花

私たちが育てた野菜は、いろいろな形や大きさがあって、きれいな野菜だけではありません。収穫体験では、野菜にはどのような花が咲いて、どんな風に野菜が実っているか、栽培過程を実際に見てもらうことができます。そして、収穫した旬の野菜のおいしさや地産地消について提案しています。また、収穫物は地元の小学校に提供し、学校給食で使ってもらっています。給食で食べる際に、どこで、どのような活動の中で取れたものなのかについて、先生から子どもたちに話してもらうようにしています。

環境学習活動について教えてください

写真:環境学習会の様子

なるべく自然に負荷がかからないようCO2を出さない取り組みとはどのようなものなのかなどを勉強します。地元で収穫される野菜を地元で消費することは、輸送距離が短いことから、CO2を出さないことにもつながりますね。栽培に必要な肥料、堆肥も同じです。また、植物が育つためには水が必要です。その水は畑の下を流れています。そのため、畑の周辺を、そのまま自然に近い状態の農地として使うことが大切です。これらのことを、植物や土に自分の手で実際に触れて学んでもらうことを大切にしています。

秋田県立大学との連携もあるそうですね

秋田県立大学の学生さんたちが、由利本荘市矢島町の「鳥海高原花立牧場」(以下、花立牧場)で「スマート酪農」について研究しています。これまでは、牧場から産出される固形のたい肥だけを農地に使ってきましたが、購入していた肥料成分を家畜の尿で補うことで農地にどのような影響が出るのか、などについて調べています。地質への影響は、のちのちの収穫にも影響します。肥料輸送のためのトラックの行き来によるCO2の排出量なども環境には影響します。当NPOは現地の協力者として関わっています。

ツーリズムと地域活性について教えてください

イベントなどに取り組むと県の内外から人が来てくれるので、さまざまな形で地域の活性につながります。例えば8月、午前中は畑で収穫体験を、夕方からは花立牧場で開催される「牧場フェスタ」でバーベキューを楽しんでもらうような取り組みもあります。地場産のものを生かすツーリズムです。手に入りにくい花立牧場のジャージー牛の牛肉や農産物を楽しむことができますので、東京から来るお客さまもいます。また、高齢のため歩けないという人が、家族の運転で当地を訪れ、クルマから降りてくることもあります。普段はクルマから降りることがないというのにも関わらずです。広大な緑があり、野菜を栽培している場所というだけで、人は動きたくなるんですね。
鳥海高原周辺には、アニマルセラピーなども手掛ける「ポニーランド花立」(矢島町)もありますので、これらが結び付くことで、鳥海高原、鳥海山麓一帯の活性化につなげられればと考えています。農薬を使わず、きれいな自然環境を守り、当地を見に来てくれた皆さんに感動してもらえるような環境を整えることが、私たちの責務です。自然がたくさんあり、風景もいい当地を体感して、伸び伸びとした時間を過ごしてほしいんです。
また、震災支援として隣市のにかほ市象潟町の団体が立ち上げた「福島こども保養基金」への協力として、福島の子どもたちを受け入れています。毎年夏休みに1週間ほど、象潟町の海や、桃野での収穫体験で自然を体験してもらっています。

秋田の環境とこれからについて

写真:秋田の環境とこれからについて語る嵯峨佳苗さん

秋田には、汚されず、生き物がたくさん生まれる、とても恵まれた環境があります。県外から訪れた人が感動することも多いです。秋田の自然や先人の人が持つ知恵を生かして、「ここにある宝」を掘り起こす人もたくさんいます。これからも当NPOは、私たちができる活動に地道に取り組んでいきたいと思っています。地元の皆さんにも、忙しい中でも自然に目を向けてもらいたいです。何かの活動にちょっと参加してももらい、一緒に取り組むことができればうれしいですね。