NPO法人大館・小坂鉄道レールバイク理事長 小棚木政之さん
大館市と小坂町の間に残る「小坂鉄道」の廃線を活用し、自転車型やトロッコ型の車両でレール上を走行する体験型観光施設「レールバイク」。県指定の緑地環境保全地域「長木渓谷」沿いの自然を楽しむことができるアクティビティーとして、年々、ファンを増やしています。同事業を軸に観光振興を図り、今年で12年目を迎えるNPO法人「大館・小坂鉄道レールバイク」(大館市)の理事長・小棚木政之さんに話を聞きました。
活動内容について教えてください
2009(平成21)年に廃線になった「小坂鉄道」の遺産を活用した、体験型観光施設を運営しています。レール上を自転車駆動で走行する「レールバイク」の運行を中心に取り組み、鉄道関連施設の保全や、小坂鉄道や地域の歴史を後世に伝えるための調査にも取り組んでいます。当施設は、観光施設としてはリピーターが多いのが特徴です。中には毎年のように訪れてくれる人もいます。3、4割が県内、残りが海外を含む遠方からのお客さまです。
活動にいたる経緯を教えてください
私自身、かねてより「大館が元気になることであれば何でも」と、地元を拠点にまちづくり活動に取り組んできました。地域発の映画として、「ハナばあちゃん!! 〜わたしのヤマのカミサマ〜」の製作にも携わりました。これは、当地の魅力や資源を広く伝えることを目的に企画した作品で、2011(平成23)年の2月の封切りでしたが、翌月に起きた東日本大震災のため活動の停止を余儀なくされました。
同年、大震災により大きなダメージを受けた観光業の支援などを目的に、観光庁が観光振興へ向けた事業を募集しました。私たちも小坂鉄道の活用を模索していたことから、実行委員会を立ち上げて、体験型観光施設として「レールバイク」を提案し、採択されました。秋には、実証実験として、初めてのレールバイクの走行イベントを行いました。想定を超える反響が得られたことから、2012(平成24)年にNPO法人化し、体験型イベントとして展開を始めました。2013(平成25)年8月からは常設運行しています。現在、4月~11月中旬に運行しています
小坂鉄道は、「ハナばあちゃん!!」作中にも少しだけ描かれていて、レールバイクも登場します。この時点では、レールバイクの運行計画はなく、あくまで架空の観光資源だったわけですが、映画が現在の活動につながりました。
活動で心がけていることや苦労していることなどを教えてください
小坂鉄道が廃線直後だった活動当初は、線路や沿線に雑草もなく、きれいな状態でした。ところが、列車が走らなくなった線路というのは、あっという間に草木に覆われてしまうんですね。また、水路の管理も行き届かなくなるため、大雨により軌道が流されるなどの被害に遭うこともあります。見た目は華やかな観光ですが、沿線の草刈りや不要樹木の伐採など、設備の維持管理のための地道な作業の方が多いですね。人手を要する草刈りのスタッフを公募すると、遠方から来てくれる人もいます。草刈り自体をしたことのない人もいて、一つの体験として楽しみに参加してくれる人もいるようです。
観光施設として観光客を迎えるための準備と、維持管理に係る作業の両立は楽ではありませんが、当地を来訪する皆さんの笑顔を思いながら、皆さんと一緒に汗を流しています。
レールバイクは自然環境に恵まれた地域を走るんですね
レールバイクの拠点は、秋田県の自然環境保全条例に基づき指定された緑地環境保全地域「長木渓谷」沿いにあります。自然の樹木が多く残り、樹木の伐採などが禁じられている場所です。大館の街中からクルマで15分ほどの地域に位置しながら、実際に現地に足を踏み入れると、多くの皆さんが想像する以上に多くの木々が茂り、森が広がっていることを体感できると思います。
当施設を訪れる皆さんは、秋田の自然を目指して来られるというよりは、レールバイクを楽しみに来るわけですが、やはり、「景色が素晴らしい」とほめてもらうことが多いですね。レールバイク自体の乗車時間は、実質40分ほどですので、乗車までの待ち時間などは、長木渓流の遊歩道などを案内します。長木川のせせらぎや渓流の流れ、小さな滝のある景観などを楽しむことができます。夏季は、カブトムシやクワガタムシもいますし、蝉時雨(せみしぐれ)も夏らしさを感じてもらえるため、特に都会から来た皆さんに喜ばれていますよ。
県内の自然環境について感じていることを教えてください
私自身、全国の美しい観光地などを見て回りました。そして、一見、自然のままのように見える景観が、住民らの積極的な美化活動により保全され、地域の振興につながっていることが少なくないことを知りました。
秋田では、山菜の採取のために深い山に入ることも多く、一方で、広々とした田んぼが広がり、人々が自然の中に入り込んで暮らしているのが大きな特徴だと感じています。県内には、良い自然環境や風景がたくさんありながら、一般には「当たり前」のこととして捉えられてしまう傾向があるようで、積極的な環境への配慮や風景づくりについては、物足りなさも感じているところです。
レールバイクで当地を訪れる皆さんにとっては、風景の全てが楽しみのはずです。川にゴミが一つ落ちているだけでも不快な思いをさせてしまいますので、美化に取り組んでいますが、放置されるゴミが少なくないと感じています。みんなで拾う、片付けることで、きれいな地域を保つこと。そのような地域に住んでいるという自負を持つことができれば、素晴らしいことと思います。
事業のこれからについて教えてください
レールバイクを軸にしながら、沿線の自然環境を活用することで、来訪者の滞在時間を伸ばして、地域への経済波及効果を高めていきたいと考えています。
環境を守りながら山を楽しむことにつなげるためには、当地がどのような場所なのかを認知してもらうことが大切です。多くある樹木には、どのような種類があって、どのような実が付いて、動物や虫など生き物との関係はどのようなものなのか、さらに、地域の歴史などを知ることができる看板を設けたいと考えています。近年は、海外からのお客さまが2割ほどを占めます。地域の自然環境の素晴らしさを広く、深くアピールできるよう、外国語による発信にも力を入れたいですね。
また、現在活動しているメンバーも歳を重ねていきますので、私たちの活動に賭ける思いを次の世代につなげていく取り組みも必要です。私たちは、次代を担う子どもたちを大切にしています。秋田の自然を体験して、「楽しかった、また来たいな」と思ってもらえればうれしいですね。
県民へのメッセージなどがあればお願いします
自然環境を保つためには、「誰か」がやってくれることを待つのではなく、やはり、一人一人の意識が大切です。そのためには、一歩踏み込んで、たくさんの樹木や植物、さまざまな自然のある山に足を運んでもらいたいと思います。そして、景色を構成する自然や歴史に関心を寄せてもらいたいと思っています。そうすることで、地域への愛着が深まりますし、私たち自身の生活が、より豊かになることにつながると思います。